ストレス耐性、共感、信頼、協力

2022.11.14

本校は、OECDと連携しながら日本におけるSES(社会性と情動のスキル)の調査をサポートし、最新の情報を収集して教育に反映させています。今回は、OECD教育・スキル理事会のIvonaより最新の情報が英語で提供されましたので、OECDに許可を得て翻訳したものをご紹介させて頂きます。a young asian boy is seated and high-fiving his teacher from his desk in a classroom

Social and emotional skills: Global importance, local responsibility?

社会性と情動のスキル:グローバルな重要性と地域の責任?
By Ivona Feldmárová
Young Associate, OECD Directorate for Education and Skills

原著はOECDが発行したもので、タイトルは次の通りです。 Social and emotional skills: Global importance, local responsibility?, OECD Education and Skills Today © OECD 2022, https://oecdedutoday.com/social-emotional-skills-built-locally/. この翻訳はOECDによって作成されたものではなく、OECDの公式な翻訳ではありません。OECDは本翻訳の内容や誤りについて一切責任を負いません。

キーポイント
– 社会性と情動のスキルは、学業の成功、労働市場の成果、健康に関連している。
– 地域レベルの政策は、学校とより広い社会の両方において、社会性と情動のスキルの促進を助けることができる。
– OECDの社会性と情動のスキルに関する調査のデータは、政策立案をサポートすることができる、国際的に比較可能な初めてのデータである。

最近の世界的な動きを見ていると、社会性と情動のスキルが重要であることを思い知らされます。COVID19による長期間の孤立や、ロシアによるウクライナへの大規模な侵略戦争に直面した今日、ストレス耐性、共感、信頼、協力といったスキルの価値は、これまで以上に見過ごすことはできません。また、社会性と情動のスキルと学業成績、労働市場の成果、健康との間には関連性があることが、研究によって明らかにされています。OECDの「社会性と情動のスキルに関する調査」は、生徒の社会性と情動のスキルが思春期に入るにつれて低下することを発見し、懸念しています。社会経済的に恵まれた環境にある生徒と恵まれない環境にある生徒の間にある社会性と情動のスキルのギャップもまた、憂慮すべきものです。では、この状況を変えるにはどうしたらよいのでしょうか?そして重要なのは、誰が率先して行うべきかということです。

データを使って都市を元気にする
政策立案者、学校の指導者、教師は、社会性と情動のスキルは価値があり開発される必要があることを認識しており、OECDのすべての教育システムにおける主要な目標でもあります。多くの国々で、学校はこれらのスキルを育成するための専用の科目や課外活動を提供し、個々の教師は教室でその育成を推進しています。しかし、社会性と情動のスキルを向上させるための政策や実践を実施すること、そして、それが実際に機能するということを知ることは困難である!ということが、しばしば共通のテーマとして取り上げられます。

では、どのようにすれば、各国は意欲的な目標や国のカリキュラムの枠組みを教室で具体的なものに変えていけるのでしょうか。生徒の社会性と情動のスキルを伸ばすために最善を尽くしてきた教師は、自分たちのしていることがうまくいっているかどうか、どうすれば知ることができるでしょうか。

データを持つことは助けになります。OECDの近年の活動のおかげで、9カ国10都市の生徒の社会性と情動のスキルに関する国際的に比較可能な初のデータベースが利用できるようになりました。しかし、データがあるところでも課題は残されています。例えば、社会性と情動の学習は、学問的スキルの発達を犠牲にして行われなければならないという認識があります。また、教師は十分なサポートがないまま、新たな責任を負わされたと感じているかもしれません。同様に、OECDの「社会性と情動のスキルに関する調査」の第一ラウンドに参加した都市は、社会性と情動のスキルを向上させるための政策や学校の実践について、すぐに利用できる文化横断的な関連資料がないことが、依然として主要な課題であると指摘しています。

都市は、社会性と情動の学習を実行に移すための負荷の一部を担うことができます。自治体は、都市部に住む世界人口の57%に直接サービスを提供しており、地元の学校の実情により近い存在です。また、学校そのものには直接関係ないけれども、生徒の社会性と情動のスキルに影響を与える問題に対して、より効果的に介入することができます。これには、学校周辺の暴力や、文化的・余暇的な活動の可能性などが含まれます。このような理由から、都市は、学校内外で社会性と情動のスキルの発達を促進するために、的を絞った政策変更を実施するのに適した場所であると言えます。

都市に力を与えることは、新しいアイデアではありません。例えば、ユネスコの「学習都市グローバル・ネットワーク」は、世界中の都市を結びつけ、生涯学習の推進を支援しています。同様に、OECDの「包括的成長のための市長会議(Champion Mayors for Inclusive Growth)」は、不平等に取り組み、都市におけるより包括的な経済成長を促進するために、地域のリーダーたちの連合体を集めています。

地域における社会性と情動のスキルの向上
OECDの「社会性と情動のスキルに関する調査」のデータをすでに活用している自治体もあり、多くの場合、パートナーの財団や大学と連携しています。

例えば、コロンビアのボゴタでは、コロンビア教育評価研究所(ICFES)が、政策立案者、教師、保護者、介護者の間で、社会性と情動のスキルと認知発達との関係についての認識を高めるために、調査データを活用したセッションを開催しました。

他の都市では、学校が直接的に変化を実施するのを支援しています。ポルトガルでは、シントラ市とグルベンキアン財団が調査データを使って、生徒の社会性と情動のスキルのレベルについて学校に情報を提供しました。シントラの学校は20の「クラスター」に分類されています。各クラスターは診断レポートを受け取り、行動計画策定の基礎となる重要な改善点を特定する必要がありました。重要なのは、自治体がこの活動の重要性と十分な支援の必要性を認識していることです。今後2年間は、専門チームが学校のアクションプランの実施をサポートします。

ヘルシンキ市は、ヘルシンキ大学と協力して、調査データと結果をさらに精緻化し、市内の学校、教師、生徒のために研究・体験に基づくツールとサポートを作成しています。ヘルシンキ市は、文化的に適切なリソースという課題に真正面から取り組んでいるのです。

社会性と情動のスキル育成のための国家政策を実施する(そして、その実施のために適切なサポートを提供する)ことは容易ではありません。多くの優先事項が競合し、学校の実情は国によって大きく異なる可能性があります。また、学校が自ら変化を実行するために必要なツールやリソースをすべて持っていることを期待することもできません。生徒の社会性と情動のスキル、ひいては人生を真に向上させるような方法で実践を変えるには、それぞれに合ったエビデンスベース、意志、専門知識、協力が必要です。学校と国が苦労しているところに、地方自治体は救いの手を差し伸べることができるかもしれません。

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この記事を書いたメンバー
今井 朝子
今井 朝子
(株)日立製作所にて研究開発に従事した後、アメリカの企業にて東京大学とイリノイ大学とのVRの国際研究プロジェクトに参加し、アプリケーション開発に従事。その後ユーザビリティーやフィールド調査に関するフリーランサーとして多数企業の新規事業提案等に携わる。現在、総務省情報通信審議会専門委員、OECD SSES National Project Manager、Salzburg Global Seminar Fellow、群馬県非認知教育専門家委員会委員、SEL Japan 運営メンバー、SEE Learning Japan運営メンバーを兼務。

<経歴>
・慶應義塾大学理工学部卒業
・慶應義塾大学大学院理工学研究科物理学専攻 修士課程修了
・イリノイ大学コンピュータサイエンス科 修士課程修了
・東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程修了